静岡地方裁判所 昭和60年(ワ)249号 判決 1989年8月29日
原告
澤谷暢之
ほか一名
被告
西村康郎
ほか一名
主文
一 被告らは各自、原告澤谷暢之に対し金四九七三万八七一二円及びこれに対する昭和五七年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告澤谷暢之のその余の請求及び原告澤谷みさ子の請求を棄却する。
三 訴訟費用中、原告澤谷暢之と被告らとの間に生じたものはこれを二分し、その一を同原告の、その一を被告らの負担とし、原告澤谷みさ子と被告らとの間に生じたものは同原告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。ただし、被告らが各自金四五〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告澤谷暢之に対し金一億〇八〇八万六四九四円、原告澤谷みさ子に対し金三三〇万円、及び右各金員に対する昭和五七年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告暢之は、昭和五七年六月二三日午前七時四五分ころ、榛原郡川根町葛籠一二六七の二先路上において、原動機付自転車を運転して進行中、被告西村運転の普通乗用自動車と衝突し、脳挫傷、外傷性脳内出血等の傷害を負つた。
2 被告西村には、漫然と道路右側に進入して運転して本件事故をひき起こした過失責任がある。
被告会社には、自賠法三条の責任がある。
3 原告暢之は、本件事故による傷害のため、左半身麻痺により左上下肢の機能は全廃となり、知能は小学校低学年以下となり、言語障害は著しく、日常の起居動作は単独で行えず、労働能力を完全に喪失した。
4 損害は次のとおりである。
(一) 入院雑費 金一一七万五二〇〇円
原告暢之は、一四六九日間の入院加療を要し、一日当たり金八〇〇円の入院雑費を要した。
(二) 逸失利益 金五二六三万〇〇八四円
原告暢之(昭和三三年一〇月二六日生)は、後遺障害確定時二七歳の平均給与年額金三〇六万七二〇〇円につき四〇年間の得べかりし利益を失つたから、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、頭書の金額となる。
(三) 介護費用 金二六八九万〇二八〇円
原告暢之は、五二年間生存可能であり、介護を必要とし、その費用は一日四〇〇〇円を下らないから、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、頭書の金額となる。
(四) 慰藉料 金二五〇〇万円
(五) 原告暢之の損害から控除すべき金額 金七六〇万九〇七〇円
(六) 弁護士費用 金一〇〇〇万円
(七) 原告みさ子は原告暢之の母であるから、その慰藉料金三〇〇万円及び弁護士費用金三〇万円も本件事故による損害である。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び同2中責任原因は認めるが、事故態様は争う。同3は不知。同4中(五)以外は争う。
三 抗弁
原告暢之は、ヘルメツトをかぶらずに、道路の中央から右寄りを、法定速度を超えて進行して来たものであつて、その過失は大である。
四 抗弁に対する認否
否認する。被告西村が道路右側部分に進入したものである。
第三証拠
書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
一 原告暢之が、昭和五七年六月二三日午前七時四五分ころ、榛原郡川根町葛籠一二六七の二先路上において、原動機付自転車を運転して進行中、被告西村運転の普通乗用自動車と衝突し、脳挫傷、外傷性脳内出血等の傷害を負つたこと、及び、被告西村に過失責任があり、被告会社に自賠法三条の責任があることは、当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第五号証、第六号証(一部)、第七号証、乙第二号証(一部)、第四号証、第五号証(一部)、第六号証(一部)、証人鈴木瑞恵の証言により成立を認める甲第九号証、証人鈴木秀幸の証言により成立を認める甲第一〇号証、原告みさ子本人尋問の結果により成立を認める甲第一五ないし第一七号証(いずれも一部)、右各証言、証人池谷長司、同磯部まち、同森下やゑの証言によれば、次のとおり認められる。
本件事故現場は、川根町抜里方面から北方中川根町方面に向かい左方の山を回つて湾曲する見通しの悪い幅員三・五メートルの道路である。道路はアスフアルト舗装されていたが、歩車道の区別はなく、センターラインの標示はなかつた。
被告西村は、車幅一・五六メートルの普通乗用車を運転し、川根町抜里方面から中川根町方面に向かつて時速約二五キロメートルで進行した。被告西村は、最徐行し警音器を吹鳴することはなかつた。
他方、原告暢之は、原動機付自転車を運転し、中川根町方面から川根町抜里方面に向かつて時速約三五キロメートルで進行した。
被告西村は、原告暢之車を前方約一九・三メートルに認め急制動し、原告暢之も被告西村車を前方に認め急制動したが、及ばず、両車は衝突し、被告西村車の前バンバー、ボデイ等は凹損し、原告暢之車の前かご、前フオークライト、前フエンダー等が破損した。
衝突により、原告暢之は、被告西村進行方向からみて道路右側に転倒した。原告暢之の頭部はガードレール近くに、脚部は道路中央近くに位置し、頭部付近には血痕があつた。
以上認定のとおり、本件事故現場は、中川根町方面に向かつて左方に湾曲する幅員三・五メートルの道路であり、被告西村は車幅一・五六メートルの普通乗用車を運転して原告暢之車と正面衝突し、原告暢之は道路右側に転倒したのであるから、衝突は道路中央付近で発生したものと推認することが可能である。
甲第六号証、乙第二号証には、被告西村進行方向からみて道路左端に被告西村車のスリツプ痕があり、衝突地点は道路左側であつた旨の記載があるが、道路の状況、転倒位置等前記認定の事実関係に照らしにわかに採用し難い。
甲第一五ないし第一七号証、乙第五、第六号証、被告西村康郎本人尋問の結果中前記認定に反する部分は採用できず、鑑定人林洋鑑定の結果は前記認定を左右するに足りるものではない。
最徐行し警音器を吹鳴することなく道路中央付近を進行した被告西村の過失は明らかであるが、時速約三五キロメートルで道路中央付近を進行した原告暢之の過失も小さくない。
被告らは本件事故による損害の五割を負担すべきである。
三 成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第八号証、第一八ないし第二〇号証、第二二、第二三号証によれば、原告暢之(昭和三三年一〇月二六日生)は、本件事故による傷害のため、昭和五七年六月二三日から昭和五九年三月一九日まで六三六日間島田市民病院に入院し、昭和五九年三月二一日から昭和六一年七月一二日まで八四〇日間中伊豆温泉病院に入院し、昭和六二年五月二日から同月二日まで八日間及び昭和六三年一月一七日から同月三一日まで一五日間島田市民病院に入院し、その間両病院に二一日実通院したこと、原告暢之は、本件事故による傷害のため、左上下肢筋力は完全に消失し全廃となり、知能低下は著しく、日常生活動作においてほぼ全面的な他人の介助を要し、労働能力を完全に喪失したものと認められる。
以上によれば、損害は次のとおりである。
1 入院雑費 金一一七万五二〇〇円
原告暢之は、一四六九日間の入院加療を要し、一日当たり金八〇〇円の入院雑費を要したものと認められる。
2 逸失利益 金五二六三万〇〇八四円
原告暢之(昭和三三年一〇月二六日生)は、二七歳の平均給与(原告主張の年額金三〇六万七二〇〇円を下らない。)につき四〇年間の得べかりし利益を失つたものと認められるから、ライプニッツ方式(係数一七・一五九)により中間利息を控除すると、頭書の金額となる。
3 介護費用 金二六八九万〇二八〇円
原告暢之は、五二年間生存可能であり、介護を必要とし、
その費用は一日四〇〇〇円(一年一四六万円)を下らないと認められるから、ライプニツツ方式(係数一八・四一八)により中間利息を控除すると、頭書の金額となる。
4 慰藉料 金二五〇〇万円
入通院状況、後遺症からすると、頭書の金額が相当である。
5 以上合計金一億〇五六九万五五六四円であるところ、被告の負担すべき五割は金五二八四万七七八二円である。これから原告ら自認の金七六〇万九〇七〇円を控除すると、金四五二三万八七一二円となる。
6 弁護士費用 金四五〇万円
7 原告暢之は成人であり、原告みさ子に固有の慰藉料を認めるに足りる資料はない。
四 請求は、原告暢之に対し被告らが各自金四九七三万八七一二円及びこれに対する昭和五七年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うことを求める限度において理由があり、その余はいずれも理由がないから、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大前和俊)